スマホはどこまで脳に悪影響を及ぼすのか?

フラッと本屋に寄った時に、目に飛び込んできた「スマホはどこまで脳を壊すか(榊 浩平 著)」というタイトル。

表紙だけで何を言わんとするか分かってしまうが、デジタルミ・ニマリズムに関するヒントがあるのではと思い、購入。

本書の内容を一言で言えば、”スマホ等のデジタルツールがもたらすオンライン習慣は脳に悪影響を与える可能性が高いので、日々の生活を見直しましょう”という、「そのままじゃないか」と言われそうな内容ではあるが、その理由が多くのエビデンスに基づいて語られているので、納得しやすい。

また、スマホをただ批判するだけでなく、現代においてスマホを手放すことが現実的ではないという読者の視点に立ったうえで、スマホとの適切な付き合い方を勧めるといった前向きな内容も書かれている。

著者は、東北大学加齢医学研究所で認知機能、対人関係能力、精神衛生を向上させる脳科学的な教育法の開発研究を行っている榊 浩平助教で、監修は同大学同研究所の川島隆太所長。

川島隆太氏ってどこかで聞いたような・・・と思ったら、2005年にニンテンドーDSで発売され、当時CM等で話題になった「脳トレ」シリーズの監修をしている方だと知って驚いた(脳トレシリーズは、30代ぐらいの人は知っているかも)

正直、結論だけ見てすぐ読み終わるかと思ったが、内容が興味深くてしっかり読み込んだので、この記事でポイントを紹介したいと思う。

本書は全年齢を対象としているものの、小中学生の”子供”に関するデータが多いことから、実際のメインターゲットは「小学校~高校生ぐらいの子を持つ親」ということになるだろう。

大事なのは「前頭前野」の働き

本書は、まず人間の脳、とりわけ認知や言語・コミュニケーションを司る「前頭前野」について詳しく書かれている。それは、本書の主題である「スマホと脳」という観点では「前頭前夜」が最も大きな影響を受けるからだ。

メモ:これは、近年になってMRI等の脳の動きを調べる技術が発達してきたから分かってきたことである。

この前頭前野は10代に大きく発達することが分かっており、10代の過ごし方が重要になってくるわけだが、現代では「スマホ」というデジタルツールによって、生活が一変した。

このスマホによって、現代の子供たちの脳は影響を受けているわけだが、著者は、これを改善するためには「脳を使って鍛える」ことが大事だと述べている。(筋肉と同じく、脳も使わなければ衰えていく)

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スマホの利用時間と学力の相関関係

前項で「脳は使って鍛える」という表現をしたが、著者の研究では一概にそうとはいえない結果も出ている。

それは、”小学生のスマホ利用時間”と”学力”の関係だ。

仙台市の小学生を対象に行った研究によると、「スマホの利用時間が長い子は、純粋に勉強時間や睡眠時間が減るため学力が低下する」という予想に反し、”スマホを毎日3時間以上使用する子は、長時間勉強しようが、しっかり睡眠を取っていようが、総じて学力が低くなる”という驚くべきデータが提示されている。

逆に、スマホの使用が毎日3時間以内の子は、勉強時間の長さと適切な睡眠で成績が上がることも確認できている。しかも、毎日1時間ぐらいスマホを使用している子の方が、全く使用しない子よりも学力が高いというデータが出ているのは興味深いところである。

なお、「3時間以上スマホを使っていたとしても、同時に並行して勉強をしていれば問題ないのでは?」と思われるが、いわゆる”ながら勉強”をした3時間は、「集中して勉強した30分」とほぼ同じ成績になる。

そして残念なことに、現実として小学5年生以上の子供の半分以上が”ながら勉強”をしているという。

ながら勉強の”ながら”とは、音楽・コミュニケーション(LINE、SNS等)、動画等を指す。

子供のスマホ時間制限には親の介入が必要

ここまでの内容を見た父母方は少なからず不安を覚えると思われる。

というのも、私自身が小学生の子を持つ親であり、その子供にスマホを与えている立場で、子供の将来を心配したからだ。

NTTドコモ モバイル社会研究所「【子ども】スマホ所有率小学5年生で半数、中学2年生で8割を超える」によると、今や小学生高学年は37%がスマホを所有しているという。

もし、「自分の子供がすでに毎日3時間以上スマホに触れていたら手遅れなのでは・・・」と思った方でも心配はいらない。

本書では、スマホの使用時間をゼロ〜1時間以下に抑えることができるようになった子は成績が上がるという結果が得られている。【令和4年度 全国学力・学習状況調査の結果(文部科学省)P.25より】

ただ注意点として、スマホの利用時間を”自主的に制限“できる子供は13%ほどしかいないため、ほとんどの場合、親が介入(制限)する必要がある。

子供の学力向上を図りたい場合は、スマホ時間を制限する家庭内ルールを設けることが求められるだろう。参考までに、我が子には夕食後の19:00〜20:00だけスマホで遊んで良いという制約を設けており、学力は現時点で上位をキープできているという状況である。(単なる親バカではなく、学力テストによる客観的なデータに基づいている)

また、11歳の子供を対象に、14歳までの3年間のスマホ利用時間と脳の発達を調べた研究によると、インターネットを多く利用した子ほど脳が発達していないという結果が出ている。

先述のとおり、最も前頭前野が発達する10代の時期をインターネットに侵されてしまうのは危険だと言えるだろう。

デジタル学習は頭に入りにくい

本書では、紙 or 画面で調べ物を行った際の脳の動きを比較した研究データが取り上げられており、このデータから、画面よりも紙で勉強している時の方が、前頭前野の活動が活発であるということが判明している。

理由としては、紙の場合は紙をめくる動作(触覚)、音(聴覚)、紙の香り(嗅覚)といった五感を使うからではないかと考えられている。

また著者は、デジタルはサッと手軽に調べることがゆえに、逆にすぐ忘れるのではないかという私見を述べている。

スマホの登場により、私たちの生活が大きく”楽”になったことで、無意識化に「スマホ=楽」という考えがインストールされて、脳が活動しなくなっているのではないだろうか。

おわりに

本書を読み、スマホの危険性を認識するところではあるが、一概に「スマホが悪」というわけでないし、著者もデジタルツールを否定しているわけではない。

例えば、3時間スマホを利用する場合に、SNSや動画を観るのと、「スタディサプリ」のような勉強アプリを使用するのとでは全く意味合いが異なるだろう。

本書で述べられていたことだが、薬の開発等では成長の早いネズミといった動物による実験が行えるため、効果も副作用も短期間で確認することができるものの、スマホは人間以外の動物では扱えないので、動物実験を行うことができない。

世にスマホを普及させる火種となった「iPhone」が発売されたのは2007年のことで、人類の歴史で見れば、たったの15年しか経過しておらず、我々にどの程度の影響があるかはまだ判断できない状態である。

これはつまり、まさに今、”全世界大でのスマホ人体実験が行われている”というように捉えることもできる。

本書の内容を全てネガティブに受け止る必要はないが、このデジタル社会を生きるうえで、自分がどう立ち回るかを考えさせられる良い本だった。

スマホはどこまで脳を壊すか (朝日新書)

スマホはどこまで脳を壊すか (朝日新書)

榊 浩平, 川島 隆太
792円(10/15 02:32時点)
発売日: 2023/02/13
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参考までに、Youtubeに著者の「スマホ脳と子供の学力」というプレゼンが公開されているので、興味がある方は見ておくとよいだろう。

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この記事を書いた人

福岡県の田舎に住む40歳のサラリーマンです。
テクノロジーの誘惑や通知地獄による”デジタル疲れ”を引き起こしている中で出会った「デジタル・ミニマリズム」の思想に惹かれ,少しずつ実践をしています。
デジタルツールは大好きだけど,テクノロジーに人生を支配されたくはない。そんな葛藤の日々を綴っています。

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