「ちょっとだけSNSをチェックしよう」と思ったはずなのに、気づいたら1時間以上もスマホを眺めていた。
子どもが話しかけてきているのに、つい「後でね」と言って、目の前のスマホ画面を優先してしまった。
僕自身も、まさにそんな日々を送っていました。仕事から帰ってきて、家族との時間があるはずなのに、ついついパソコンやスマホを手にとってしまう。ロードバイクに乗る時間や読書の時間も、スマホの通知やSNSの誘惑に負けて、なかなか確保できない。時間はあるはずなのに、いつも「忙しくて時間がない」と感じてしまうんです。
「なぜこんなにスマホに夢中になってしまうんだろう?」
そう自問自答する中で、心理学を学んでいる僕が最近出会った論文が、その問いに一つの答えを与えてくれました。実は、私たちの心の奥底に潜む、ある感情がスマホ依存を加速させているというんです。
今回は、最新の研究論文をもとに、僕たちがなぜスマホに囚われてしまうのか、その心のメカニズムを解き明かし、そこから抜け出すための具体的な「対処法」について書きます。
なぜ、僕たちはスマホに囚われてしまうのか?最新研究が示す「心のメカニズム」
僕たちがスマホに夢中になる背景には、単なる暇つぶしや便利さだけではない、もっと深い心の動きが関係していることが、最新の研究で明らかになりました。
今回ご紹介するのは、Hu Wen氏らが発表した「The mediating role of social avoidance between relative deprivation and smartphone addiction: a random intercept cross-lagged panel model study.」という論文です。この研究は、「相対的剥奪感」が「社会的回避」を強め、それが結果的に「スマホ依存」につながるという、僕たちの心の連鎖を明らかにしています。
「相対的剥奪感」「社会的回避」という難しい言葉が出てきたので、一つずつ、自分なりの解釈で説明します。
1. 「相対的剥奪感」とは? – 「隣の芝生は青い」が心を蝕む
まず「相対的剥奪感」とは、簡単に言えば「自分は周りの人より劣っている、損をしている」と感じる心の状態のことです。
例えば、SNSを開けば、友人の楽しそうな旅行の写真、成功した同僚の輝かしいキャリア、完璧(そう)に見える家族の日常が目に飛び込んできますよね。それらを見たとき、「それに比べて自分は…」と感じてしまう。これがまさに「相対的剥奪感」です。
僕もかつて、エンジニアとして業務に携わっていた頃、周りの同僚が次々と結果を出したり、転職して成功している姿を見ては、「僕はこのままでいいんだろうか…」と焦りを感じていました。
この「隣の芝生は青い」という感情は、SNSのアルゴリズムによってさらに助長されます。そもそもSNSというものは、ユーザーが最も反応しそうなもの、つまり「刺激的で完璧に見える」投稿を優先的に表示するように設計されています。これは、ユーザーの「承認欲求」や「比較欲求」を巧妙に刺激し、ドーパミンという快楽物質の放出を促すことで、アプリの滞在時間を最大化しようとする技術的なメカニズムなんです。
2. 「社会的回避」とは? – 人と関わるのが億劫になる心理
「相対的剥奪感」が強まると、次に何が起こるかというと、「社会的回避」という行動を増長します。
「自分は周りより劣っている」と感じると、人との交流が億劫になったり、積極的に人と関わることを避けようとする心理です。失敗を恐れたり、自分の弱みを見せたくないという気持ちから、現実世界での人間関係から距離を置くようになるんですね。
僕自身、もともと引っ込み思案な性格だったのですが、SNS監視社会になってからは余計に人と話したりすることが億劫になりました。人前で話すことは好きなんですが、大勢の人が集まる場所では、自分の至らなさが露呈するのではないかと無意識に感じていたのかもしれません。
3. 「スマホ依存」への連鎖 – 孤独とスマホの悪循環
そして、この「社会的回避」が強まることで、最終的に「スマホ依存」へとつながっていく、というのがこの論文の核心です。
現実世界での人間関係を避けるようになると、人は「孤独感」を感じやすくなります。その孤独感を埋めるために、手軽に刺激や繋がりを感じられるスマホの世界に没頭してしまう。SNSでの「いいね!」は、一時的な承認欲求を満たしてくれますし、動画コンテンツは現実の嫌なことを忘れさせてくれる手軽な現実逃避空間になります。
しかし、これは一時的な解決にしかなりません。スマホに没頭すればするほど、現実世界での人間関係は希薄になり、結果として「相対的剥奪感」や「社会的回避」がさらに強まるという悪循環に陥ってしまいます。
この論文では、「ランダム切片交差遅延パネルモデル」という心理学の領域で使用される高度な統計モデル(詳しく知らなくて大丈夫です)を使って、これらの関係性を単なる相関ではなく、時間的な因果関係として明らかにしています。つまり、「自分はダメだ」という感情が、人との交流を避けさせ、その結果スマホにのめり込んでいく、という心の動きが科学的に裏付けられたのです。
この論文から得られたことと、これからの取り組み
この論文を読んだとき、僕もまた、知らず知らずのうちにこの連鎖の中にいたのかもしれない、と考えさせられました。
でも、この仕組みを理解したからこそ、僕たちはそこから抜け出すための具体的な一歩を踏み出すことができます。ここから、これからの取り組みについていくつか考えてみましょう。
1. 比較の対象を「他人」から「過去の自分」へ変える
「相対的剥奪感」を減らすためには、他者との比較を意識的に減らすことが重要です。SNSでキラキラした投稿を見る時間を減らし、代わりに自分の成長や進歩に目を向けてみましょう。
- SNSの利用時間を制限する。アプリの通知をオフにする、特定の時間帯だけ利用するなど、意識的に距離を取る工夫をしてみてください。いっそのこと、割り切ってSNSアプリを削除するのもかなりオススメです。(意外とどうにかなります)
- 自分の「成長日記」をつける。日々の小さな成功や、昨日よりもできたことを記録してみましょう。僕は、趣味にしているロードバイクに乗る時に、走行距離やタイムを記録することで、他人ではなく「過去の自分」と向き合い、成長を感じるようにしています。これは、心理学でいう「自己効力感」を高める効果があります。
2. 意図的に「リアルな社会的交流」の機会を作る
「社会的回避」を乗り越えるためには、意識的に現実世界での人間関係を再構築することが大切です。
- 家族との時間を最優先にする。食事中はスマホをテーブルに置かない、子どもとの会話の時間を意識的に作るなど、小さなことから始めてみましょう。僕も、子どもが話しかけてきたときは、スマホを置いて目を見て話すように心がけています。
- 小さなコミュニティに参加する。同じ趣味を持つ人々のイベントに参加したり、地域のイベントに顔を出してみるなど、共通の趣味・話題を持つ人たちとの交流は、新たな繋がりを生み出し、孤独感を和らげてくれます。
- スマホを置いて「散歩」に出かける。スマホを持たずに近所を散歩するだけでも、気分転換になり、現実世界との繋がりを感じられます。
3. デジタルデバイスとの「賢い付き合い方」を身につける
スマホ依存から脱却するためには、デバイスそのものとの付き合い方を見直すことも重要です。
- 「通知」をコントロールする。不要なアプリの通知は全てオフにしましょう。本当に必要な連絡だけが来るように設定するだけで、スマホに気を取られる回数が劇的に減ります。
- 「E-ink端末」を活用する。読書をする際は、スマホではなくE-inkディスプレイを搭載した電子書籍リーダー(Kindle Paperwhiteなど)を使うのがおすすめです。E-inkディスプレイは、紙と同じ「反射光方式」という技術で表示されるため、バックライト方式のスマホ画面と比べて目が疲れにくく、脳への認知負荷が低いことが知られています。これにより、読書に集中しやすくなります。
- 「紙の書籍」に触れる。物理的な本を手に取ることは、デジタルデトックスの有効な手段です。紙の質感やページをめくる感覚は、デジタルにはない集中力と満足感をもたらしてくれます。
- 「ポモドーロタイマー」を活用する。作業と休憩を細かく区切るポモドーロテクニックは、集中力を維持し、スマホの誘惑を断ち切るのに役立ちます。
さいごに
今回の研究が教えてくれたのは、「自分はダメだ」という感情が、人との繋がりを避けさせ、結果的にスマホに依存してしまうという、僕たちの心の連鎖でした。
でも、この仕組みを理解したからこそ、僕たちは変わることができます。
「相対的剥奪感」を感じたら、意識的に他人との比較をやめ、自分の成長に目を向ける。
「社会的回避」に陥りそうになったら、小さな一歩でもいいから、リアルな人との交流を試みる。
この記事が、あなたのデジタルライフを見つめ直すきっかけになれば嬉しいです。
📚 参考文献
- タイトル: The mediating role of social avoidance between relative deprivation and smartphone addiction: a random intercept cross-lagged panel model study.
- 著者: Hu Wen, Zhu Zixuan, Dai Qi, Ye Baojuan
- 掲載誌/ソース: PubMed
- 公開日: 2026-Feb-24
- DOI/URL: https://doi.org/10.1186/s40359-026-04220-2
- 査読: あり
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